こんにちは!
色のお話シリーズ、第三弾です。
サライ商事では、世界各国から革を輸入しています。それらの革の名前や色の名前は、基本的には、タンナーが名付けた名前をそのまま使っているので、イタリア産の革の名前は、イタリア語だったりします。
今回は「ナポリ」と「シエナ」を取り上げてみましょう。イタリアのバダラッシィ・カルロ社のミネルバボックスなどの黄色系の革の名前で、「シエナ」は同社の「チグリ」や「ユーフラテ」の茶系の革の名前です。
同社では、オーナーのシモーネ氏の感性で、独特の名づけをされていることも多いですが、この2つの言葉は、同じ村の別のタンナーさんも、色の名前や革の名前で使っておられます。当地では当たり前の言葉なのかな、と思って調べてみると、この2つの言葉には、共通点がありました。「ナポリ」は、ピッツァでお馴染み、南イタリアの有名な町です。そして「シエナ」は、タンナーのあるトスカーナ州の古都。どちらも町の名前だったのです。
ナポリの黄色、「ネイプルズイエロー」といえば、絵を描く方や、西洋絵画がお好きな方にはピンとくるかもしれません。ナポリ近郊のヴェスビオ火山から採取された土性顔料から作られたと伝わる、やや赤みが射したやわらかな黄色です。14世紀から17世紀ごろにかけてはジリアーノという色名で呼ばれ、レオナルド・ダ・ヴィンチや、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールも使っていたそうです。彼らも「ナポリの火山ではいい黄色が採れる」なんて言っていたのかもしれません。
同じくシエナは、当地では「Terra di Siena(シエナの土)」といわれ、シエナ近郊のアミアータ山のふもとのバニョーリ村で採れる土性顔料から作られた色です。やや黒味を帯びた黄褐色のことを指します。面白いのは、これは「ローシェンナ(terra di Siena naturale)」とも言われ、この土を焼いたものを絵具にすると、「バーントシェンナ(terra di Siena bruciata)」という赤褐色になります。これらの色は、シエナの町出身の画家、チェンニーノ・チェンニーニも好んで使ったとされています。
シエナの町は、14世紀にはフィレンツェと覇を競った強大な都市国家でした。ルネサンスに先駆けてシエナ派といわれる画家が活躍し、町の中心部に創建されたゴシック建築の宮殿や大聖堂は、フレスコ画で彩られています。力のある都市には芸術が花開きますが、逆に、芸術のために見い出された色によって、都市の名前が永遠に残ることになったのです。
これらの色は、いわば当地での伝統色だったのです。例えば日本でも「京紫」や「江戸紫」などがあります。京都で用いられていた赤みのある紫に対して、江戸近郊の武蔵野台地で採れた紫草で染めた、青みがかった紫のことを指すそうです。これは「今紫」とも呼ばれたそうで、江戸幕府に政権が移り、江戸が中心であるぞと言いたい当時の人々の思いが見えるようです。
色の名前からも、当時の文化や歴史が垣間見えて、面白いですね。